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柴田元幸

1954年東京生まれ。アメリカ文学研究者、翻訳家。著書に「生半可な学者」(講談社エッセイ賞受賞)、「アメリカン・ナルシス」(サントリー学芸賞受賞)、「バレンタイン」など。ポール・オースター、レベッカ・ブラウン、スティーブン・ミルハウザー、フィリップ・ロスなど、現代アメリカ文学を数多く翻訳し、日本の文学シーンに多大な影響を与える。訳書トマス・ピンチョン「メイスン&ディクスン」で日本翻訳文化賞を受賞。東京大学文学部 特任教授。文芸誌「MONKEY」編集人。

この映画には、ものすごく盛り上がる感動的な場面もないし、
					涙なしでは見られないような派手に胸を打つシーンもないし、
					愛の素晴らしさを朗々と謳い上げるような展開もありません。  
					あるのは、生涯おおむね好きなように生きてきて、
					そのせいでそれなりに辛い思いもしただろうけど、
					べつに後悔もしていないし、引け目を感じたりもしていない人が、
					自分の人生観をぽつぽつと語る姿です。
					彼が撮った素晴らしい写真も随所に挟みこまれるし、
					彼を敬愛する人たちのあたたかい視線が
					感じられたりもするのですが、
					基本的には、猫背のおじいさんがのそのそ動きながら
					もごもご喋っている映画です。
					でも、 それが、とてもいい感じだと思うのです。  

					まったく個人的な話になってしまいますが、
					このソール・ライターという人の笑顔は、誰かに似ている、
					とずっと思っていたのですが、あるときふっと、
					これは僕に文学の素晴らしさを最初に教えてくれた
					中学の 国語の先生の笑顔と同じだと思いあたりました。
					柴田元幸

柴田さんとのQ&A

Q1. そもそも、この映画の字幕を引受けて下さった理由はなんだったのでしょう?
(1)ソール・ライターの写真を見て素晴らしいと思ったから。
(2)以前にも一度、映画半分だけ字幕翻訳をやって面白かったので、またやりたいと思っていたから。
Q2. 今回、字幕翻訳で最も苦心した、または気を付けたのはどんなところですか?
字数を制限内に収めつつ「急がない」感じを残すこと(言うは易く行なうは難し、ですが…)。
Q3. 柴田さんの考える文学の翻訳と、映画字幕の翻訳での一番の違いは何ですか?
文学の翻訳はいろんな要素を全部伝えようと努め、映画の翻訳はまず要点を伝えようとする。
Q4. (一番好きな場面を敢えて選んでくださいとお願いしたら)
  どのシーン、または言葉ですか? そして、その理由は?
「忘れられたいと思ってたのに
重要でなくあろうと願った
それが… まあ仕方ない」
――と、彼が言うところ。
偽の謙遜でなく、本気でそう言っていると感じる。
そんなことができる人が、ほかにどれだけいるだろう?
Q5. 柴田さんにとってソール・ライターの写真の魅力は?
  (敢えて選んで頂くとしたら)一番好きな作品は?
作品の魅力: 雨やガラスを使って一見すごく仕掛けっぽいのに作為を感じさせず、素直に美しいところ。対象の重要性(有名人とか)に寄りかからないのに、さりとて自分のエゴ全開というのでもなく、名もない対象を「自立」させているように思えるところ。
好きな作品: 「モンドリアン的労働者/Mondrian Worker」

挿絵